NEARセンター長挨拶
北東アジアでは、文化的多様性と、歴史が絡まり合う複雑性、そして政治体の間の力関係の構図の変動という不安定性が、この地域の情勢に絶えず緊張をもたらしています。そうした中で、「東アジア共同体」や「北東アジア共同体」などの議論が盛んになっては、鳴りを潜めます。しかし、北東アジアの安定と平和、そして、真の相互信頼関係を構築するために、その時々の政治的動きに左右されずに、より広い視野と長いスパンで北東アジア地域をとらえ、この地域の過去を検討し、現在の苦悩や難題を共有して、今後の可能性を展望していくことが重要であることは言うまでもありません。それは北東アジア地域を研究対象とする私たちNEARセンターの使命でもあります。
NEARセンターは、創設以来、「北東アジア学創成」を掲げ、北東アジア研究の拠点構築を目指して活動してまいりました。センター研究員は、朝鮮半島、モンゴル、ロシア、中国、日本などを研究対象とし、専門も政治学、経済学、歴史学、国際関係、思想史など多様ですが、各自、自分の専門から一歩踏み出す意欲を持ち、協力して「超域」という視点から北東アジア研究に取り組んでいます。NEARセンター主催の「北東アジア研究会」、「日韓・日朝交流史研究会」、「西周研究会」などの研究会を通して、各研究員は学問分野の垣根を越えて共同研究プロジェクトを立ち上げ、内外の研究者を招いて切磋琢磨しています。こうした活発な研究活動は『中国式発展の独自性と普遍性』(宇野重昭等編)、『変動期の国際秩序とグローバル・アクター中国』(佐藤壮、江口伸吾編)など、多くの研究成果を生み出しています。
のみならず、NEARセンターは「北東アジア学創成シリーズ」の出版事業をも推進しています。すでに『北東アジア学への道』(宇野重昭著)と、『北東アジアと朝鮮半島研究』(福原裕二著)、『現代中国の省察』(李暁東著)の三巻が上梓され、今後はさらにモンゴル、ロシア、中国、日本というテーマで順次刊行していく予定です。
そして、特筆すべきは、2016年度より人間文化研究機構(NIHU)の「北東アジア地域研究推進事業」の研究拠点大学の一つとして、日本における北東アジア研究の一翼を担っていることです。「北東アジアにおける近代的空間の形成とその影響」をテーマに、内外の研究者の協力の下で研究事業を推進しているところです。研究成果の一部はすでに本センターの紀要『北東アジア研究』の別冊として出版されています(別冊3号・4号)。
同時に、近年、北京大学や復旦大学、東北師範大学などの研究機関とシンポジウムを開催するなど、盛んに国際学術交流を行い、数々の研究成果を公表しています。
さらに、NEARセンターは大学に設置された研究機関として、大学院との連携に取り組み、北東アジア開発研究科博士後期課程所属の優秀な大学院生をセンターの准研究員に任命して研究活動をサポートするなど、北東アジア地域の研究者・専門家の養成にも力を入れています。また、「NEARセンター市民研究員制度」という特色のある制度を設け、地域と交流を深めるとともに、市民研究員と大学院生との共同研究を支援しています。
NEARセンターは歴史がまだ浅く、規模も決して大きいわけではありませんが、研究ユニットを組織するなどの工夫をして、これからもより特色のある研究成果を世に問うていきたいと思います。
島根県立大学北東アジア地域研究センター長
李 暁 東