私のオススメ本

第219回 大切な人を突然失いたくない人にオススメ

おススメ本
 松江キャンパス 図書館職員 北井 由香

  『アフター・ユー』
  一穂ミチ著
  文藝春秋  2025年11月発行

   
 ある日、突然、大切な人がいなくなる。そんなことを想像するだけで、呼吸が苦しくなるほど怖くなる。覚悟をしていてもつらいのに、何の予兆もなくその瞬間が訪れたとしたら、それは、胸が押しつぶされるなんてもんじゃないだろうと思う。何気なく過ごしてしまった日々をどれだけ後悔し、どれだけ泣き、どれだけ自分を責めるのだろうか。  
 この物語は、まさにそんな「喪失」から始まる。タクシー運転手の青吾(せいご)が仕事を終えて家に帰ると、いつも帰宅しているはずの恋人・多実(たみ)がいない。連絡もなく不安な気持ちで待つ青吾に、衝撃的な知らせが。多実が海難事故で行方不明になった。しかも、見知らぬ男性と一緒に船に乗っていたようだ。自分以外に恋人がいたのか、混乱する青吾の心は、悲しみと怒りと困惑でいっぱいになる。  
 けれど、同時に多実のことを何も知らなかったのだと気づく。一緒に暮らしていたのに過去のことはほとんど話してくれず、家族のことも、育った場所のことも知らなかった。青吾は、多実の足跡を辿る旅に出ることを決意する。この物語にはミステリー要素もあり、多実の足跡を辿ることで、さまざまな謎が少しずつ明らかになっていく。読み進めていくと分かるが、この物語には、「救い」がある。その救いをファンタジーだという人もいるけれど、私は、絶対に救いだと思う。多実がいなくなったことが夢だったらどんなに良いか、生きていてくれたらと、祈るような気持ちで読んだ。  
 さて、この物語には、どのような真相が待っているのか、手に取って確かめてほしい。そして、最後に、思いがけないほど大きく、うれしく、そしてどうしようもなく悲しい贈り物が届く瞬間をぜひ見届けてほしい。  
 
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